2010年08月04日

新作ビール

新作ビール

新作ビールが完成しました。その名も「イギリス海軍ビール」の異名を持つIPA(インディアン

ペールエール)です。 ちなみにお隣は私の日曜のお一人様ランチのイカと夏野菜の冷静カッ

ペリーニ。それの紹介はまた何れ。

何ゆえこのビールのレシピ・ネームがIPAでイギリス海軍ビールかと申しますと話は多少長く

なります。その昔英国が七つの海を支配していた時代,植民地であったインドに海軍は航海を

頻繁にしていました。その航海はまだスエズ運河もなかった時代,大西洋を下りアフリカ大陸の

南の先端望郷岬を回ってインド洋に達すると言う,長い長い船旅でした。

そんな長い航海,欠かす事のできないのが水と食料。そこで彼は腐らない「水」を本国から持ち

出そうと考えました。それがこのIPAと言うアルコール飲料だったのです。

純粋のアルコールはもちろん腐りませんが,ビールはたかが酒度5%程度の液体です。しかも

主原料が麦なのでそのままでは何れ腐敗します。なので彼ら考えました。まず最初にしたのは

著しく比重の高い原液を作ったのです。つまり濃度の高い麦芽糖液をです。それに酵母を加え

醗酵させると通常よりアルコール度数の高いビールが出来ます。また液体中に糖度が残ったと

しても高い糖分はそれ自体バクテリアが取り付きにくい物質です。なので都合が良かった。

そして次にした事は,麦芽原液を煮込みに掛ける時,やはり通常のビールよりホップを大量に

つぎ込んだのです。もともとビールにホップが添加されたのは味の向上を狙ったのではなく

ビールの腐敗防止の目的で古代ケルト人が考え付いた事です。つまり英国人の祖先ですね。

更に彼らはそのホップを煮込みの時のみならず,樽詰めされたビール原液にも大量に投下し

ました。これは現在では「ドライ・ホッピング」と言う手法で多くのクラフト・ビールの製造現場で

ビールの香りを高める為よくされるようになっています。

こうして英国海軍の紳士たちは長い航海を共に出来る飲料水を確保しました。

しかし彼ら,やっぱ長くて退屈な船旅中,どうしても酔っ払いたかったんでしょうねぇ・・・・。

一般に「ビールに旅はさせるな」と言われています。生きた酵母が入った生ビール特に環境の

変化に弱く,温度変化や紫外線にさらされる事,それと揺すられて樽の中で波打ったりして

液体中に酸素が溶け込むと味が劣化します。なので極力ビールは移動させたくないものです。

しかしこのイギリス海軍ビール。本国で樽詰めされ寒いかの地を下って赤道を超えてアフリカ

大陸を回り,インド洋に出て再び赤道をまたいでインドに着きます。いったい何ヶ月掛かった事

なんでしょう? その苦労を想像するのが難しいです。

ですからこのビール,長い航海中毎日船底で揺すられ温度変化を幾度も経験したのです。

でも面白い事に,偶然の産物で,それらの条件が返って「美味いビール」を造ってしまったのす。

ビールは樽の中での醸造中,酵母が麦芽糖液を食べて二酸化炭素とアルコールに代謝します。

その過程で酵母は液体の上面に上って行き仕事をして,ある程度すると底に沈んでいきます。

完全に役目を終え死んだ訳ではないのですが,ちょっと元気なくなって落ちていくのです。

そうして樽の底にはたくさん次々と酵母の「おり」が溜まっていきます。ここで樽を空気を巻き込ま

ない程度に揺すってやると,沈んでいた酵母は上の方へ巻き上がって来て,結果再び仕事をやり

始めるのです。ちょうど船底のゆれは,こんな感じのゆらぎだったのでしょう。

こうして旅の間中酵母は働き続け,醗酵は間断なく進んで行きます。酵母が活性している限り

ビールはその他の菌に支配されにくいですし,元気のいい酵母は世代交代を繰り返し,その度に

その環境に適した酵母が出現して来ます。

もうひとつ温度変化ですが,ビールは高温域で醸造すると乳酸菌や酢酸菌に感染するリスクが

増します。しかしそれらの感染を免れるとしたら,高温域での醗酵は酵母がエステルをより多く

産生します。これはビールに時にフローラルだったり,また様々なフルーツ様の香りだったり,実に

複雑で奥深いフレーバーを与え,重要な旨み成分となります。

多分,長い醸造期間,その間のゆっくりとしたゆらぎ,そして長いスパンでの温度の上下等が

酵母に多様な変化を促し,結果複雑な仕事をさせたのではないでしょうか。

旅の途中つまみ食い(?)もあったのでしょうが,インドに着いて樽開けして飲んでみるとこれが

ひどく美味くって,このIPAと言うビール・レシピはあっという間に知れ渡ってしまいました。


まったく面白いプロフィールのビールです。麦酒に物語あり・・ですか。

「かわいい子には旅をさせろ」なんですね。


タグ :IPA

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Posted by Brewman at 16:30│Comments(0)ビール
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